今回のお話は一昔前に体験した、法事での一コマ。

怖い、というよりは心温まる話かもしれません。

ではいってみましょう。

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「雨の日の法事」

コロナ禍の中、どのお寺でも法事や葬儀の縮小に悩まされている。

当寺のような、こんな片田舎の小さなお寺でも例外でない。

コロナが騒がれるようになってからというもの年回忌の法事が3件ほど延期、もしくは中止になってしまった。
お寺の収入の最たるものは「葬儀」と「法事」のお布施である。

その2大収入の一つがこのような状態であると、、、かなり厳しい状態である。

そんな中、とある信者さんよりご法事の依頼があった。
30代という若さで亡くなった奥さんのご法事だ。

この方はよくお参りにも来ていただき私も良くしてもらった。

お寺としてもその恩に報いるため、力が入る。
入念に準備をして、当日を迎えた。

法事当日のできごと

法事当日。

その日は天候が悪く、小雨だった。
30分ほど前になって雨は止むどころか、雨足は強まってきた。

傘立てやタオルなどの準備をすることになった。

一通り、作業を終えて部屋にもどり玄関前の着替える部屋に向かうと、、、

玄関に見知らぬ女性が立っていた。

いや、どこかで見たことが有るだろうか?
顔はよく見えない。傘もさしていない。
着ている服も、喪服でなく白い服のようだ。

そんなふうに思い玄関の引き戸を開けようと向かうと、、、。

女性は無言で本堂の方を指差した。

「あ、水子のお参りの方かしら?」

直感でそう感じた。当寺ではアポ無しの来参のほとんどの人が水子供養の為に訪ねてくる人だからだ。大人の女性一人で、となるとその率も上がる。

玄関越しに

「ご供養にお参りでしょうか?今日は法事がありますが、お時間まででしたらお参りできますよ」
とお声をかけました。

するとその女性は、返答することなく、そのまま本堂に向っていった。

私も着替えの途中だったので、そのまま部屋に入り支度を整えてから本堂へと向かった。

消えた訪問者

ところが、、、誰もいません。

「おや?もう帰ってしまったかな??」

と思うが、、、それにしても、なんだろう。

うーん、何かがおかしい。

というのも、、、気配がないのだ。人のいた気配が。

本堂の戸も開いておらず、上がった形跡もない。
さらにこの雨ならばお堂に向かう途中で足跡ができるはずなのだが、その足跡もない。

「お堂でなく、お墓参りに来たのかな?」

と思い墓地に向かうも誰もいない。

ここまで来るのにかかった時間は3分ほどしか経っていない。
普通に考えればお墓参りをして帰った、とは考えにくい。

これは、、、なんだろう、、、。
さっきの女性は一体、だれだったのだろう・・・。

まさか、、、幽霊?

そんなことを思いゾッとしましたが、、、。

なぜか嫌な感じはしない。
なぜだろう。

法要開始、その時、、、

そんなこんなをしていたら本日の施主家族が集まりだした。

いつもならば休憩所にてお茶の接待もあるがこの状況なので今はすぐに本堂に入ってもらい待機していてもらう。

今回の法事は県内の身内のみなので人数も少ない。
今年3歳になる仏さんにとってのこどもさんもお父さんの膝の上でちょこんと座っている。

そして時間となり法事が始まる。

法要時間も短縮をお願いしているが、気持ちはその分入れてお経をあげる。
このような状況であっても大切なところは簡略化、簡素化はしては絶対に行けない、と思っているので力が入る。

そして、最後のお経が終わり、法話をするために導師席から立ち、後ろを振り返ったその時、、、。

いた。

あの女性が、いた。

入り口付近でこちらを見ている。
表情はよく見えない。

ただ、心配そうに、施主の家族、特に、、、子供を見ている。

その時、私は直感した。

「この、女性は、、、今日の法事の奥さんだ、、、。」

安心を与えること

なんで?どうして?という疑問よりも、自分の法事に来ているこの奥さんの気持ちが、頭の中に入ってくる。

「この子は、自分がいなくてもだいじょうぶだろうか?」

「私のことを、忘れないで覚えていてくれているだろうか?」

「これから先、家族はうまくやっていけるだろうか?」

そういった想いがひしひしと伝わってくるのだ。

その悲しそうな姿を見ていると、胸が熱くなってくる。

届けなくては。

奥さんに、皆の想いを。

そして安心してもらわなくては。

それが、今、私ができる唯一のつとめなのだ!

施主家族に向き直り、法話を始める。

「大丈夫ですよ。あなたのことはだれも忘れていませんよ。」

心のなかで奥さんに語りかけながら、法話をすすめる。

「見てやって下さい。子供さんもちゃんとおりこうにしていますよ。」

「あなたのためにみんなで手を合わせていますよ。」

「これからもしっかりとご供養をさせていただきます、だから、、、」

「だから、、、安心して、仏さまの世界で、どうか、見守ってあげてくださいね」

奥さんの心配が、だんだん、安心に、温かい気持ちに変わっていく。

それが、わかる。

わかるから、、、余計に涙が出てくる。

気がつけば私は大泣きをしていた。

そして、最後に、大切な、たいせつな、誓いを伝える。

「奥さんのためにも、一日一日を、精一杯、仲良く、明るく、生き抜いていきましょう」

「そしてその姿を見せることが、何よりの供養になることでしょう」

「最後に、皆で奥さんに誓いの御題目をお唱えしましょう。」

「我々も、あなたの分まで、強く、明るく生きていきます。だから、、、」

「だから、、、どうか安らかに、仏さまの元でおくつろぎください」

施主家族に、そして奥さんに語りかける。

そして、皆で奥さんの為に、御題目を唱える。

皆の想いがこもった、誓いの御題目がお堂に響きわたり、、、。

そして、奥さんは、いつの間にか消えていた。

誓いと想いは、永遠に

「いやあ、なんか法話でおしょうさんがあんなに妻のことを思ってくれて、一緒に泣いてくれて、本当に嬉しかったです。私も泣いてしまいました。」

照れくさそうにご主人が法要終了後、声をかけてくれた。

奥さんの話をしようか、とも思ったが止めておいた。

そんなこと、言わなくても、いい。

確かに、奥さんは今日来ていた。

そして、皆で想いを届けて、誓った。

受け取ってくれた、と信じている。

だから、あんなにも温かで優しい涙があふれたのだ。

それでいいじゃない。

そんなことを思いながら、遺影の姿を拝する。

こころなしか、奥さんの笑顔が、いっそうほころんだ気がした。